2015年度に開催された「夢絵コンテスト」優秀賞受賞者が通う造形教室にて、絵画指導をされている先生に取り組みの様子を伺ってきました。
お話を聞いた人:
こども造形教室「アトリエ・アルバス」田中 和香子 先生
(インタビュー・文:横山さくら/情報科学専門学校1年)
受賞者以外にも見られた成長
― 夢絵コンテスト応募の経緯はなんでしょうか?
田中先生:元々コンテストなどは自分から見えないところで評価されるという点があまり好きではなく、アトリエでは絵画コンクールの応募は行っていませんでした。そんな中、かながわ夢絵コンテストを知り合いから紹介され、このコンテストは審査が比較的オープンで見られるというところが良いと思い応募しました。
―どのくらいの期間をかけて描いたのでしょうか?
田中先生:その子供によって差はありますね。さーっと描いてしまう子もいればじっくり時間をかけて描く子もいました。ただ受賞していた子は皆自発的に時間をかけて描いていましたね。もちろん受賞していない子でも同様に時間をかけた子が多くいました。「もう少し描きたい」「明日も来て描いていい?」というように自分から進んで描いている子が多かったです。
―テーマについては何かアドバイスなどは行ったのでしょうか?
田中先生:テーマについて自分で考えさせる事が大事だと思っていますので、言い過ぎないように気を付け会話をしながら引き出していきました。会話の中で視点を増やせるように導くことによって、自分の個人的な夢だけでなく周りの人のことまで考えられるようになったりと、テーマを深く考えるようになっていきました。
―受賞時の子どもたちの反応はどうでしたか?
田中先生:受賞が決まった時は年末頃で授業が無かったので子供には会えませんでした。ですがとにかく早く結果を伝えようと思い急いで電話を掛けたところ、電話を受けた保護者の方がとても喜んでいました。子供達はというと景品を気にしている子が多く、入選の子が「PC貰えるの?」なんて聞いてきたりしていました。
ただ一人、私も絶対に受賞すると思っていた子が受賞できなかったのですが、その子は受賞できなかった事が悔しかったようで泣いてしまいました。そしてその後、悔しさをバネに別のコンクールに応募し入選をしました。
恩師の教えをアトリエでも
―先生の子供の頃のことで今につながっていることはありますか?
田中先生:3年生から図工を担当されていた先生の存在ですね。かなり厳しい先生で授業中あくびをするとクレヨンとか絵具とかが飛んできたりしました。ですが、そういった事を人が話をしている時に堂々とするのはよくないというモラル的な指導ですし、勿論あくびを噛み殺している子にまでそういうことはなさりませんでした。
私もアトリエでは制作だけでなく、内と外との区別や状況を考えて行動できるように、他所でのマナーも指導するように心掛けています。
―その先生でなにか印象に残っているエピソードなどありますか?
田中先生:毎回授業の初めに20分くらい、なんでもないような日常の話をされていました。その中で「日常の中に本当に美しいものがある」という言葉が印象に残っていて、ただ当時は小学生でしたので全くどういうことなのかピンときませんでした。
ですが美術大学に進んだ19歳の頃、先生のおっしゃった意味が漸く理解できた気がしたのを覚えています。ふとした瞬間の光や影、空気が作り出す美しさを、いつか感じ取ってほしいとのお気持ちからの言葉だったのではと思っています。
―ではその先生の事でアトリエの授業などに影響を受けていることはありますか?
田中先生:ありますね。まず肌色と黒は禁止。人の肌の色は一人ひとりみんな違うし、世界中には様々な肌の人種がいるのにその色を肌の色と決めつけて塗るのはおかしい。そして黒もほかの色を混ぜれば作れるのと、濁ってしまうので使わない。また、クレヨンや絵具はあまり色を多く持っていてもそれは大抵作れる色なので16色くらいを推奨されました。そういったことは先生に影響を受け、そのままアトリエでも実践しています。
大切なのは絵のレベルではない
―子供にどんな風に育ってほしいですか?
田中先生:自分で考えられる子になってほしいです。言われた通りの事なら誰でもできるでしょう?そうではなく自分で考え観察し工夫をできる、そういう人間になってくれたら嬉しいです。なので、私は絵のレベルはあまり重視していません。絵のレベルではなく絵を描くことによってそういった力をつけることが大切だと思っています。
例えば、「虎は縦に模様が入っている」という先入観で描くのではなく、よく観察すると「足の部分の模様は横に入っているな」「顔の部分の模様も体とは違うな」というように気付くことがあります。そういうように自分で観察して比較できるような人間になってほしいです。また、そういった観察の視野を広げるためにも絵に関係ないイベントなども積極的に子供たちに勧めるように心がけています。
それと、いい意味で馬鹿になってほしいですね。失敗をしたくない子や、こうでなくてはいけないのだろうと思い過ぎている子が多くいます。作品の中は自分の国なので一人ひとりが王様です。やりたいことを最後まで実現してしまえばいいと思います。
ですので、子供にもよりますが硬い感じの子に対しては私が積極的に課題に対してくだらなくて面白い提案をあえて言うこともあります。先生というしっかりしていなければいけないというイメージのある人があえてくだらないことを言えば、少しずつ「答えはないんだ」「面白いことを言ってもいいんだ」と思えてくるので。子供によって個人差はありますし、周りの環境も一人ひとり違うので気を遣ったりもしますが、そういう風に引き出すこともあります。
インタビューを終えて
横山さくら/情報科学専門学校1年(写真右)
取材サポート:井上栞菜子/情報科学専門学校1年(写真左)
学生指導・撮影:高垣香里/NPOこどもネットミュージアム